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檜垣寺(蓮台寺)

(ひがきでら れんだい)

蓮台寺は、熊本県熊本市西区蓮台寺にある浄土宗西山禅林寺派の寺院です。肥後国三十三ヶ所観音霊場の第16番札所であり、また「檜垣寺」という異名を持ち、平安時代の著名な女性歌人、檜垣媼(ひがきのおうな)との関連でその名が伝わっています。

蓮台寺の歴史

蓮台寺の創建年代は不明ですが、第65代花山天皇の頃(984~986年)に遡ります。この時代、女流歌人として知られる檜垣が、晩年を過ごすために肥後国白川のほとりに草庵を結び、観音像を安置して信仰生活を送りました。これが蓮台寺の始まりとされています。以降、寺は「檜垣寺」とも呼ばれるようになり、「檜垣の塔」や「檜垣媼像」など、檜垣にまつわる多くの遺物が寺に残されています。

檜垣との繋がり

檜垣は、肥後国司として熊本に赴任した清原元輔と親交を結びました。彼女がこの地で詠んだ歌は有名で、「年ふれば わが黒髪も 白川の 水は汲むまで 老いにけるかな」といった歌が伝えられています。檜垣は、清原元輔を送別する際に「白川の底の水ひて 塵立たむ 時にぞ君を思い忘れん」と詠み、この歌が彼女の代表作となっています。

寺の再興と発展

蓮台寺は、正保年間(1645~1648年)に顕空文海上人が禅林寺から訪れて再興に努めました。寛文6年(1666年)には熊本藩主・細川綱利から寺領を寄進され、その後も興隆を続けました。また、寛政年間には当時の住職明空上人が白川の氾濫による死者の供養のため、千体の地蔵を境内に安置し「千体地蔵寺」とも呼ばれるようになりました。

蓮台寺の見どころ

蓮台寺の境内には、数々の歴史的遺物が残されています。特に檜垣にまつわる「檜垣の塔」や「檜垣媼座像」が有名です。また、檜垣が水を汲んだとされる井戸も残されており、寺の歴史を今に伝えています。

檜垣の塔の伝説

蓮台寺には「檜垣の塔」と呼ばれる塔があり、この塔は檜垣の墓石とされています。天正15年(1587年)、豊臣秀吉の九州征伐に従った細川忠興(三斎)が蓮台寺を訪れて塔を見学したという記録も残っています。加藤氏統治時代には熊本城内に移されましたが、細川忠興がこれを再び元の場所に戻すよう命じました。

千体地蔵と明空上人の功績

寛政年間に住職を務めていた明空上人は、白川の氾濫で命を落とした人々の供養のため、千日念仏行脚を行い、その後、千体の地蔵を安置しました。この功績により蓮台寺は「千体地蔵寺」とも呼ばれ、多くの参拝者が訪れるようになりました。現在でも境内には千体の地蔵が静かに祀られています。

蓮台寺の年中行事

蓮台寺では毎年9月24日に「千体地蔵まつり」が行われ、多くの参拝者が訪れます。この行事は、蓮台寺の歴史や檜垣にまつわる伝説を感じながら、地元の人々によって大切に守り継がれています。

檜垣嫗の伝説

平安時代に活躍した歌人、檜垣媼は、その美貌と歌の才能で知られていました。晩年、彼女は肥後国白川のほとりに草庵を構え、観音菩薩を信仰しながら過ごしました。この地に残された井戸や塔などが、檜垣の伝説を今に伝えています。檜垣は能「檜垣」にも登場し、後世にその名が広く知られるようになりました。

交通アクセスと所在地

蓮台寺は熊本県熊本市西区蓮台寺2-10-1に位置しています。交通アクセスは、九州産交バス「蓮台寺」バス停から徒歩5分で、車でも訪れることが可能です。蓮台寺の周辺には「蓮台寺橋」や「檜垣の泉」といった関連スポットが点在しており、歴史的な名所を巡ることができます。

参拝時間と駐車場

蓮台寺の参拝時間は9時から17時までです。境内には無料の駐車場があり、約30台が駐車可能です。静かな境内で歴史に触れながら、心安らぐひとときを過ごすことができます。

檜垣媼について

檜垣媼(桧垣嫗)は、平安時代中期(10世紀)に活躍した女性歌人として知られていますが、その実際の生涯については詳細が明らかになっていません。彼女にまつわる数多くの伝説が語られていますが、これらの物語は、後世の仮託や創作も含まれているとされています。檜垣の歌としては3首のみが認められており、歌集『檜垣嫗集』も後人によるものとされています。

有名な歌とその背景

『後撰和歌集・巻第十七・雑三』には、檜垣が詠んだとされる歌が収められています。大宰大弐・藤原興範が彼女に水を汲むよう頼んだ際、檜垣は次の歌を詠んでいます。

「年ふればわが黒髪も白河の みづはくむまで老いにけるかも」

この歌は、自身の老いと零落を詠んだもので、平安時代を代表する一首となっています。また、彼女は肥後守・清原元輔とも親交があり、元輔が肥後の国司として赴任していた際に詠んだ別の歌も有名です。さらに、檜垣が清原元輔の娘・清少納言の母親であるという俗説もありますが、これは後の時代に付け加えられたものであり、現代の研究では否定されています。

蓮台寺と檜垣のゆかり

蓮台寺は、檜垣が晩年に草庵を結び、観音像を安置して信仰の日々を過ごした場所としても有名です。寺の境内には「檜垣石塔」が残されており、彼女の霊を偲ぶ場所となっています。また、檜垣が日参していた「檜垣の泉」と呼ばれる湧水も、今日まで地元の人々に大切に守られています。

檜垣に関する創作と能『檜垣』

室町時代には、世阿弥による能『檜垣』によって檜垣媼の名がさらに広まりました。この能では、檜垣が年老いた姿で現れ、生前の白拍子としての美しさを誇ったことが生じた罪によって、死後も苦しみ続けている姿が描かれています。僧の弔いを受けた彼女の霊が、華やかに舞いながら消えていくという美しくも悲しい物語が語られます。

伝説の女性・檜垣の物語

檜垣はその美しい容姿と、和歌に秀でた才能で多くの人に愛されましたが、時代の動乱によって零落してしまいます。伝説によれば、彼女が零落した理由は、叛乱を起こした純友が財産を奪ったためであり、その後、太宰大弐の小野好古が肥後を通った際に彼女と出会ったとされています。

小野好古が河辺で水を汲む老婆がかつての名高い檜垣であることを知り、彼女に対して哀れみの心を抱き、和歌を詠んで贈り物をしたというエピソードが伝えられています。このとき詠まれた檜垣の歌は、彼女の老いと零落を切実に詠んだもので、平安時代の和歌の中でも特に感動的な作品として知られています。

檜垣の有名な歌

「ぬばたまの わがくろかみは しらかはの みづはくむまで なりにけるかな」

檜垣の泉

蓮台寺の近くには、檜垣が日参していた「檜垣の泉」があります。この泉の水は、檜垣が毎日汲んでいたと伝えられ、今日も地元の人々によって大切にされています。訪れる観光客は、檜垣の足跡を感じながら、この清らかな水に触れることができるでしょう。

まとめ

蓮台寺は、歴史的な背景とともに、平安時代の女流歌人檜垣の伝説を今に伝える由緒ある寺院です。庭園や千体地蔵、檜垣の塔など見どころが豊富であり、四季折々の美しい風景を楽しむことができます。熊本を訪れる際には、ぜひ蓮台寺の静寂な境内で歴史と自然に触れてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
檜垣寺(蓮台寺)
(ひがきでら れんだい)

熊本市・山鹿・菊池

熊本県