荒尾干潟は、熊本県荒尾市に位置する日本を代表する干潟の一つで、ラムサール条約にも登録された重要な湿地です。国内でも有数の広さを誇る干潟であり、豊かな自然環境と多様な生態系が特徴です。
荒尾干潟は、有明海の中央部東側に位置しており、その広大な面積は約1,656ヘクタールにも及びます。これは日本全体の干潟面積の約40%に相当し、国内でも非常に重要なエリアです。荒尾干潟は、河川の流入が少ないため、潮流によって運ばれた土砂や貝殻が堆積し、低潮線付近には砂の洲が形成されています。
この地域の干潟は比較的砂や貝殻が多く、他の干潟と比べると泥が少ないため、ぬかるみにくく、歩行が容易です。ゴカイ類、貝類、小型の甲殻類などが多く生息し、シギ・チドリ類やクロツラヘラサギなどの多くの渡り鳥が中継地や越冬地として利用しています。また、古くからノリの養殖やアサリ漁が行われてきました。
かつての荒尾干潟周辺には砂浜が広がり、荒尾第二海水浴場として多くの海水浴客で賑わっていました。このため、南荒尾駅が新設され、ラジオでも海水浴情報が毎日放送されていました。しかし、高度成長期の水質悪化により、海水浴場は閉鎖されました。現在では、水質が徐々に回復しつつあります。
荒尾海岸沿いには、約2.6kmにわたって美しい松並木が続いています。さらに、毎年夏には荒尾市主催の「マジャク釣り大会」も開催され、多くの参加者が集まります。
荒尾干潟は、シギ・チドリ類をはじめとする渡り鳥の飛来地として知られています。秋から春にかけて、シロチドリ、キアシシギ、ダイゼンなどの種が飛来し、越冬地や中継地として利用されます。特にシロチドリは荒尾市に唯一繁殖する鳥であり、市の鳥に選ばれています。
2008年には、環境省が実施した「モニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査(春期)」で、荒尾干潟において6,492羽ものシギ・チドリ類が確認されました。これは全国で2位の記録です。その他、クロツラヘラサギやツクシガモ、ズグロカモメなどの絶滅危惧種も多く見られ、重要な越冬地として機能しています。
干潟では、ゴカイ類や二枚貝などの底生生物が豊富に生息しています。これらの生物は、干出と水没を繰り返す干潟の特有の環境の中で、豊富な有機物を捕食し、シギ・チドリ類にとって重要な食料源となります。また、底生動物の活動により水質の浄化も進んでいます。
近年では、水質の悪化による赤潮や資源の減少に伴い、漁獲量が減少しています。これに対応するため、地元の漁業組合が中心となって干潟の耕作や砂を撒く再生事業が進められています。
荒尾市では、荒尾干潟がラムサール条約に登録された7月3日を「荒尾干潟の日」と制定し、この日を中心に環境保全活動や普及啓発活動を行っています。また、干潟の重要性を市民に広く伝える取り組みが行われています。
熊本県では「くまもと・みんなの川と海づくりデー」を制定し、有明海・八代海の再生を目指して、県民運動として川や海の清掃活動を実施しています。これには地元住民や漁協、企業が参加し、干潟の保全に貢献しています。
熊本県荒尾市増永・一部・蔵満ほか
所在地:熊本県荒尾市蔵満20番地1