市房山は、九州山地の南部に位置する日本の山で、標高は1,720.8mです。この山は熊本県水上村、宮崎県椎葉村、および西米良村にまたがっています。地域の信仰の対象としても知られ、古くから人々に崇拝されています。
市房山は、米良三山の一つに数えられ、球磨(くま)・米良地方では信仰の山として重要な役割を果たしています。特に熊本県水上村の湯山にある市房神社では、毎年旧暦の3月15日に「お岳参り」が行われ、地域の伝統的な行事として続けられています。また、九州本土において標高1700mを超える数少ない山の一つでもあり、登山客にも人気があります。
市房山の地形は、北部と南部で特徴が異なります。北部は花崗岩の貫入岩帯が広がり、南部は四万十層群を基盤としています。山頂付近では花崗岩が露出しており、約1,400万年前(新生代中新世)にマグマが四万十層群に貫入して冷え固まったものです。この花崗岩は広さ約75平方キロメートルに及び、黒雲母を含んでいます。
また、市房山の東側では一ツ瀬川がV字谷を刻んでおり、山の壮年期の地形を見ることができます。これらの地形や地質は、登山者や地質学者にとっても興味深い景観を提供しています。
市房山は豪雨地帯であり、年間降水量は約3,200mmにも達します。このため、山の北側を中心に一部の地域では土壌の流出が進み、荒廃が見られます。
かつて市房山の植生は豊かで、シイやカシが山麓に、モミやツガが山腹に、ブナ林が山頂付近に広がっていました。しかし、現在では宮崎県側を中心に開発が進んでおり、原生林は山頂付近にわずかに残されているのみです。現在、スギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツの植林が主流となっています。
市房山全体では約8,000種類以上の植物が生息しています。中にはツクシイワシャジン(筑紫岩沙参)やイチブサヒメシャラといった固有種が見られます。また、30種以上の植物が市房山を南限としています。4月下旬から5月上旬にかけて見頃となるアケボノツツジや、10月中旬に鮮やかな紅葉を楽しむことができます。
市房山では、アオバズクやオオルリといった鳥類が生息しています。自然豊かな環境の中で、多様な動植物が共存しています。
市房山は一年を通じて登山が可能ですが、積雪のある12月から2月、そして暑い夏の7月・8月を避けるのがベストシーズンです。日帰りでの登山が可能で、登山道は整備されていますが、難易度は部分的に異なります。
市房山の登山道は、標高3~7合目までは木の根や岩が多く、急斜面が続きますが、7~8合目はなだらかになり、登りやすくなります。8合目から山頂にかけては勾配が急になりますが、木の根や岩が少なく、比較的楽に登ることができます。
登山道は水上村の市房神社(12km)、西米良村槙ノ口(8km)、西米良村吐合の竹之元川(17km)の3つのルートがあり、どれも登山者に人気があります。特に、水上村側のルートでは市房山キャンプ場や市房神社(4合目)を経由することができ、登頂まで約4時間かかります。一方、西米良村側からのルートは槙ノ口から登り始め、上りが約4時間20分、下りが3時間10分、合計7時間30分程度で往復できます。
2011年10月現在、心見橋方面の登山道が崩壊しており、立ち入り禁止となっている箇所がありますので、登山前に最新の情報を確認することが重要です。
市房山へ公共交通機関でアクセスする場合は、くま川鉄道湯前線湯前駅から九州産交バスの市房登山口行きに乗車し、終点で下車します。
車で訪れる場合、九州自動車道の人吉球磨スマートインターチェンジから約38kmです。事前にルートを確認し、駐車場の有無をチェックしておくと良いでしょう。
市房山はその豊かな自然と厳しい地形で、多くの登山者や自然愛好者を引き寄せています。多彩な植物や動物、そして季節ごとの風景が、訪れる人々に感動を与えます。地域の信仰の対象でもあるこの山は、歴史的な背景とともに、訪れる人々に心の癒しを提供する場所でもあります。