地獄温泉は、熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽に位置する温泉です。温泉の名前の由来は、火山ガスの影響で草木が生えない「地獄地帯」と呼ばれるエリアが温泉の裏山に存在することからきています。
地獄温泉は、阿蘇五岳の一つである烏帽子岳の西南中腹、標高約750メートルに位置しています。単純酸性硫黄泉(硫化水素型硫黄泉)で、泉温は60〜100℃に達します。効能としては、神経痛、病後回復、筋肉痛、関節痛、五十肩、打ち身、冷え症などが挙げられますが、これらの効果が全ての人に当てはまるわけではありません。
地獄温泉の歴史は古く、かつては「柴田旅館」や「国民宿舎南阿蘇」など複数の宿が存在しましたが、現在では「清風荘」という一軒の旅館のみが残っています。柴田旅館は2013年に閉館し、その前に国民宿舎南阿蘇も2008年に閉館しました。
地獄温泉にある唯一の宿「清風荘」は、まるで木造校舎を思わせる大きな建物で、複数の浴場があり湯めぐりを楽しむことができます。源泉は裏山の地獄地帯から引湯されており、特に「すずめの湯」は湯船の底から源泉が直接湧き出しているため、足元から温泉の湯を感じることができます。
地獄温泉は江戸時代には、熊本細川藩の藩士しか入浴が許されていない特別な場所でした。さらに、入浴が許された藩士も帯刀が義務付けられるなど、厳しい規則がありました。現在も清風荘の本館玄関には、1808年に書かれた当時の掟書が展示されています。
1998年の台風7号では、清風荘の別館が被害を受けたものの、本館は無事でした。翌年、別館は改築されました。また、2002年のFIFAワールドカップ・日韓大会の際には、ベルギー代表チームが熊本市でキャンプを行い、その際に当温泉に入浴しました。
2016年に発生した熊本地震では、地獄温泉自体は大きな被害を免れたものの、国道325号の阿蘇大橋が崩落し、温泉へのアクセスが断たれてしまいました。このため、自衛隊のヘリコプターによって宿泊者や関係者が救出されました。さらに、地震後に発生した土砂災害で多くの建物が被災し、ほとんどが改築・改装されることとなりました。2019年4月には、日帰り温泉として「すずめの湯」が再開し、2020年9月には宿泊も再開されました。
明治時代以降、一般庶民にも開放された地獄温泉は、湯治場として発展しました。現在でも、清風荘には一般旅館部とは別に、安価で素泊まりが可能な自炊設備付きの簡素な部屋が残っています。かつては湯治客のために食品や日用品を販売する売店もありましたが、現在は自動販売機に置き換わっています。
熊本地震後の改築によって、湯治部は「曲水舎」の一角に残されており、湯治客も引き続き利用できるようになっています。
地獄温泉へのアクセスは、南阿蘇鉄道高森線の長陽駅から宿泊者専用の無料送迎バスまたはタクシーで約15分です。また、阿蘇下田城駅からは予約制の乗合タクシーで約15分ほどですが、現在は運行が休止されています。路線バスも2011年に廃止されました。車を利用する場合、九州自動車道の熊本インターチェンジから約30kmの距離です。
地獄温泉はその歴史的背景や自然環境から、訪れる人々に特別な体験を提供しています。2016年の地震を経て再建された清風荘は、現在も多くの湯治客や観光客に愛されており、古き良き日本の温泉文化を体験できる場所です。