熊本県阿蘇郡小国町下城に位置する「下の城のイチョウ」は、国の天然記念物に指定されたイチョウの巨樹です。このイチョウは、推定樹齢が1000年以上とされ、県内最大のイチョウとして知られています。特に「下城の大イチョウ」または「下城大イチョウ」という名で広く親しまれており、文化庁による正式な指定名称は「下の城のイチョウ」です。
このイチョウが「下の城のイチョウ」と呼ばれる背景には、指定当時の地域名が「下ノ城」と表記されていたことが関係しています。現在は「下城」と表記されることが一般的ですが、当時の名称を反映して現在も「下の城のイチョウ」として指定されています。
「下の城のイチョウ」は、1934年(昭和9年)12月28日に国の天然記念物に指定されました。これは日本国内に20件しかない、イチョウが国の天然記念物として指定されたうちの1つです。また、熊本県内で国指定の天然記念物イチョウとしては2件のみのうちの1つでもあります。
「下の城のイチョウ」は、熊本県阿蘇郡小国町の下城地区に位置しています。この地区は、小国町役場のある宮原地区と、大分県日田市に隣接する杖立温泉の中間部に位置し、国道212号から少し東に入った町道沿いの小高い場所にあります。すぐそばには、落差約40メートルの「下城滝」があり、地形的には筑後川水系の上流部にあたります。
下の城のイチョウの樹高は約25メートル、根元の周囲は約21メートルにも及びます。また、幹の周囲は9.6メートルから12メートルと資料によって異なる数値が報告されています。特に注目すべきは、このイチョウの枝張りの広さで、東方向には約19メートル、西方向には約25メートルにも伸びており、遠目にはまるで小さな森のようにも見えます。
下の城のイチョウは雌株であり、根元には多数のひこばえが柱状に伸びて、まるで大きな塊のように主幹を取り囲んでいます。最も大きなひこばえは、高さ2メートル、周囲1.9メートルに達します。乳柱こそ少ないものの、幹には多くの乳瘤(ちちこぶ)があり、その形状から「チコブサン」や「チチコブサン」と呼ばれ、地域の人々に親しまれてきました。
この乳瘤にまつわる伝説として、母乳の出が少ない女性が、このイチョウの木に祈り、その樹皮を煎じて飲むと、母乳の出が良くなるという言い伝えがあります。今日でも、子宝や良縁を願う人々が訪れ、幹の所々に削り取られた痕跡が見られます。また、このイチョウは下城の城主であった上総介経賢の墓標ともされ、側にある五輪塔は彼の母、妙栄の墓と伝えられています。
この巨木は例年10月下旬から11月上旬にかけて黄葉し、鮮やかな黄色の葉が目を楽しませてくれます。また、小国町によってライトアップが行われ、夜には幻想的な景色を楽しむことができます。この期間には多くの観光客が訪れ、イチョウの神秘的な姿に感動します。
「下の城のイチョウ」は熊本県阿蘇郡小国町大字下城字坂下716番に位置しています。交通アクセスとして、熊本市方面からは大津町・県道339号経由で約50分、大分自動車道九重インターチェンジからは国道387号経由で約30分となっています。近隣の「道の駅小国(ゆうステーション)」も便利な立ち寄りスポットです。
ライトアップは10月中旬から11月中旬まで実施され、黄葉が見頃となるこの時期、多くの人々が幻想的なイチョウの姿を楽しむために訪れます。トイレなどの設備も整っており、観光に適した環境が整っています。
「下の城のイチョウ」はその歴史的、文化的な背景から地域に深く根付いた巨樹であり、自然の力強さを感じさせてくれる存在です。国の天然記念物に指定され、訪れる人々に感動を与えるこのイチョウは、熊本県を代表する観光スポットとして今後も大切に守られていくことでしょう。黄葉の時期には、ぜひ足を運んでその美しさを堪能してみてください。