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鯛そうめん

(たい)

丸ごと1匹の鯛が豪華。ダシが染みたそうめんは上品な味わい

大小120余りの島からなる天草市は、豊かな自然と海に恵れた土地で、”マダイ”が市の特産品のひとつになっている。そのマダイを使った郷土料理が”鯛めん”だ。まるごと1尾の鯛を姿煮にしあげ、ゆでたそうめんと大皿へ盛り付けると、そうめんの「白波」の間を泳ぐ鯛の姿が再現される。この見た目の良さから、鯛めんはおめでたい席で出されることが多いようだ。食べる際には、鯛を煮つけた煮汁をベースにして作られたつけ汁につけてから、口へ運ぶ。鯛から出たダシが効いて上品な味わいが楽しめる。

タイといえば、古くからお祝い事などに欠かせない魚だが、熊本県は全国の中でも新鮮なマダイが豊富にとれ、消費量も常に全国上位。刺身や塩焼き、鯛茶漬けなどさまざまな調理法で親しまれている。
天草地域の「鯛そうめん」(「鯛めん」ともいう)は、刺身にした後の頭や中骨などのアラを「アラ炊き」にして、煮汁をそうめんにかけて食べる。タイの旨味がたっぷりの煮汁を無駄にしない生活の知恵で、お祝い事の際に提供された。そうめんを使うのはそうめんが特産の島原の食文化に影響を受けたと思われる。一方、上益城郡山都町(旧・馬見原地区)に伝わる「鯛めん」は、タイを丸ごと姿煮にして大皿に盛り、そうめんを白波に見立てて皿に盛り付ける豪華なお祝い料理。そうめんはタイを煮た煮汁でつくる出汁でさっと煮た後に盛り付け、出汁につけて食べる。馬見原は江戸時代の宿場町で酒造業も栄え、料亭なども並ぶ商人の町だった。山の中にある町で生のタイを手に入れるのが困難だったが、裕福な豪商が多かったので、日向灘のタイは大分県の竹田を経て馬車で運んだり、天草のタイは船や早馬に乗せて運んだりした。昔は結婚式のときなどにつくられるハレの料理として、集落の婦人たちがそのつくり方を受け継ぎ、各家に2~3kgほどのタイをそのまま煮付けにできる大きさの鍋や盛り付けの皿が用意されていた。
「鯛そうめん」(または「鯛めん」)はほかに岡山県や愛媛県、広島県など瀬戸内海で郷土料理として知られる。熊本県での発祥は定かではないが、馬見原では大分県の姫島から伝わったとされているようだ。姫島ではタイはつがいになったら巣を決めて決して離れないので、婚礼の席で「離婚しない」という願いが込められた。両家が対面(「鯛めん」)し、長い麺で両家の末永い付き合いを願う意味もある。

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名称
鯛そうめん
(たい)

天草

熊本県